2010年8月8日日曜日

MIFF #16 (Final)

"Uncle Boonmee Who Can Recall His Past Lives"
@Forum Theatre

今回のメルボルン国際映画祭,僕自身のトリとなる作品がこれだ。サプライズ・スクリーニングということで,何が上映されるかわからないうちにチケットを買っておいたのだが,フタを空けるとカンヌのパルム・ドール受賞作という幸運!直前に観た「キャタピラー」の余韻が醒めないうちにスクリーンに向かった。

しかし,不思議な作品だった。

主人公のブンミおじさんは腎臓病をわずらって死の淵にいる。そんな彼のところへ,死んだ奥さんの幽霊やら,行き別れた息子だという猿人やらが訪ねてくる。そして,我々観客はブンミおじさんというチャンネルを通して,過去や未来へと縦横無尽に連れて行かれる。一見,水木しげるの脳みその中を覗いているみたいだ。ブンミおじさんが死に際して見た夢なのか? あるいは彼の魂とともに前世や,これから訪れるであろう未来の世界を旅しているのか?? この映画は,唐突なまでに時間と空間を行き来する。その意味では,水木しげるというよりも,ゴダールの映画を見ているかのようだ。

今年,カンヌの審査委員長はティム・バートンだったわけだが,彼の「見たこともないファンタジーの要素があり,美しく奇妙な夢を見ているようだった」という言葉は,まさに的確だとしか言いようがないし,彼をして,本作にパルム・ドールを与えせしめたことは理解に難くない。

ゴダールの作品と同様,今回の映画祭で,これまでにしたことのないような映像体験ができたという意味では,この作品を見られた幸運に感謝したいし,このような映画がアジアから出てきたことも嬉しく思う。しかし,個人的には,ちょっと説教臭く感じられるところもあり,その部分がファンタジーとしての世界観にそぐわないような気がして納得がいかない部分もあった。タイは歴史上いろいろなことを経験してきた国でもあるし,現在の政情も不安定だ。監督がインディペンデント映画としてこの作品を撮るにあたっても,さまざまな障害があったことも予測できる。ただ,そういった背景が作品に反映され,せっかくの夢から醒めてしまうような瞬間があったことは残念と言わざるを得ない。同じメッセージを埋め込むにしても,もっと別の方法があったのではないか?

…ぜいたく言い過ぎだろうか。

Uncle Boonmee Who Can Recall His Past Lives
(2010 年 / フランス=ドイツ=スペイン=タイ / 114 分)
監督:Apichatpong Weerasethakul
出演:Thanapat Saisaymar / Jenjira Pongpas / Sakda Kaewbuadee
第 63 回カンヌ国際映画祭パルム・ドール

★★★★★★★☆☆☆

0 件のコメント:

コメントを投稿